ふたぎのあれこれ | 執筆、観劇をする傍ら思ったことをつらつらと

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Posted by ふたぎ おっと on  | 

「あとかたの街」読んだ(※ネタバレ注意)

こんにちは、ふたぎです。

あっという間に秋っぽくなってきましたね。
いつもなら9月ってあづいーあづいー言いながらうだっていたのに、今年は気温が下がるのが早いようです。
ついでに雨続きだから、なんかもやっとするような天気ですよね。
気持ちが何か滅入ります。


はてさて、本題。


つい昨日、こんなマンガを読みました。




おざわゆき作「あとかたの街

女性マンガ雑誌「BE LOVE」でつい先日完結したばかりの作品です。
もともと同雑誌で連載中の他の作品を読んでいたんですが、その後のページに「あとかたの街」が載っていたので読んでみたら本当に終盤だったので、気になって一巻から買って読んでみました。

<あらすじ>
太平洋戦争末期の昭和19年、名古屋。木村家次女・あいは、国民学校高等科1年生。青春真っ只中にいるあいの関心は、かっこいい車掌さんに出会ったことや、今日の献立のこと。自分が戦争に参加しているなんて気持ちは、これっぽっちもなかった――。しかし、米軍にとって名古屋は、東京や大阪と並んで重要攻撃目標だった。少女・あいにとって、戦争とは、空襲とは、空から降り注いだ焼夷弾の雨とは、一体何だったのだろうか。(講談社コミックプラスより)


全部で5巻になる作品で、現在4巻まで刊行中。
上に書いたあらすじは1巻のあらすじになるんですが、2巻、3巻と続くにつれて、地震や空襲の影響を受けて名古屋が変わっていくのを、12歳の少女の視点から描いています。


で、昨日一気に4巻まで読んだんですが、読後感としてはなんというか、何も言葉が浮かばないくらいに色々と衝撃を受けました。


読み始めはとても穏やかです。
歴史上では昭和19年なんて日本が負け続けてる時だし悲惨な時代なんだろうな、っていう先入観で読むと、「あれ?案外そんなものなの?」ってなります。

もちろん生活物資の配給なんてほとんど停滞している時代なので、日々の生活は苦しい(なんて言葉では軽い気もしますが)ことには違いありません。それに、当時の中学生の学業と言えば、椅子に座って数学とかを学ぶではなく、グラウンドで畑仕事や工場で兵器製造の一端を担う、なんていうかなり異常な状況にもなっています。

しかしながら、12歳の主人公”あい”にとっては、それが当たり前になってしまっているため、そんな非常な日常について深く考えることもなく過ごしていました。本当に最初の方なんかは、女性雑誌片手に職業美人に憧れる、なんていう少しのんびりした会話が描かれています。
「少年H」とか「アドルフに告ぐ」とか読んでも思いましたが、案外当時の日本人にとって、戦争っていうのはどこか遠くの地で起こっていること、というような感覚でしかなかったのかなっていうのが、ここでも感じ取れます。昭和19年ですらそうだった、というのがまた太平洋で起こっていることとのギャップを感じさせます。


とにかく、最初の方は、戦中でありながら和気藹々と過ごす、みたいな少しズレているような出だしでした。
絵柄も可愛いので、ほんわかした雰囲気で行くのかなという印象を与えます。


が、その可愛い絵柄とストーリーのギャップがまたすごい。


話が進むにつれて、主人公あいの周りの環境が変わっていきます。
3巻まではたった数ヶ月の話なんですが、色んなことがあいの周りで起こります。

例えば、学徒勤労令や妹の学童疎開、東南海大地震や三河大地震、遂に始まった名古屋の航空機・兵器工場への空襲とそれに伴う友人の死、空襲の本格化。

生活物資の配給や工場勤務だけではまだ戦争を遠くに感じていたわけですが、米軍が名古屋の上陸に現れることで、”あい”の中で戦争というものがより色濃い恐ろしいものへと変化していきます。その恐怖故に人間関係にひびが入ったり、無意識に「味方」の同級生を敵視したりと、気持ちが不安定になっていく様が如実に描かれています。

実際に当時ってこんなんだったんだろうなと思うんですが、読んでいてなかなかショッキングに思いました。
人間関係で言うと、例えば主人公は家庭が貧乏なため女学校に行けないことに劣等感を感じていたのですが、女学校に行ったからといって決していいものかというと、そうではなかったのです。
当時、女学生が勤務する工場は、工場の階級に合わせていいところからいい学校の生徒が振り分けられていたそうで、金持ちの女学校の学生が務めるのは三菱重工や三菱航空などの花形工場。当時振り分けられた生徒達は、貧乏学生に対しては鼻が高かったわけです。
しかし、同時に米軍の空襲対象でもあるわけです。
そういう状況になったことで、主人公の友達が精神崩壊したりと、かなり生々しく描かれていました。


この作品は昭和19年の8月から昭和20年の3月の話までを1~3巻の間に描いているのですが、その間は工場への空襲が始まりつつも何となくまだ遠くで戦争が起こっている、という感じで進められます。
戦争自体は客観的に描かれていますが、戦争状態が引き起こす人間の醜い部分、甘い部分、何があっても変わらない綺麗さ、などが主人公の目で語られています。どちらかというとそっちの方に焦点が置かれているように思いました。

しかし、4巻になると、遠かった戦争が一気に目の前にやって来ます。
たった一夜の名古屋大空襲をほぼまるまる一冊分を使って書ききっているんですが、これを読んだ後は本気で言葉が出てきません。
なんとかして自分だけは生き延びたい、なんとかして家族だけは生かせたい、助けてあげたいけどそんな余裕なんかない。
なんとか生にしがみついて逃げる必死さというのを、痛々しくストレートに書いています。
大空襲で大混乱の名古屋市内がどういう状況だったのか、ということがとにかく伝わる一冊になっています。


この作品は実は第44回日本漫画家協会賞コミック部門の大賞を受賞した作品みたいです。
その賞がいかなるものか私は全く分かりませんが、これは納得だなと思ってしまいました。
というのも作者のおざわゆき先生は、当時15歳だった自分の母の体験談を元にこの作品を書いているようです。また、当時の名古屋のことをかなり細かく書かれているところからも、かなり綿密な調査を行ったことが伺えます。
実際、漫画でも小説や映画でも、名古屋を舞台にした作品ってあまり触れたことがなかったので、衝撃的であったと同時に、こう言うとあれですが、少し新鮮味がありました。
また、それを女子供の目線で書いてところも、この作品ならではなのかなと思いました。


やたらと長く語ってしまいましたが、これは是非読んでもらいたい作品だと思います。
最近じゃ「昔はこんなんだったんだよ」なんて戦争が昔話になりつつあるわけですが(もちろん私にとってもですが)、こんな時代が当たり前にあったっていうことを、リアリティを持って伝えてくる作品だと思います。


是非、お試し下さい。

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